コロナ危機で、世界中の主要国の中央銀行がゼロ~マイナス金利政策をとるだけでなく、流動性を確保するために無制限量的緩和策とドルの供給をしているために、どこの国債も低金利で、リスクをあまりとりたがらない人々(たとえば日本人投資家)にとってパッシブな投資対象がほとんどなくなってきてしまいました。
そんななかで、個人の日本人投資家達が少しでも利回りの良いものを狙って行こうとするのは当然のことですが、今、豪ドル債が再び脚光を浴びてきているようです。
5月20日のブルンバーグに、「オーストラリア国債市場は、利回りを追求する日本の投資家にとって魅力的な投資先として再浮上している。」という記事が載っていました。
その証拠にオーストラリア政府は5月13日、過去最大規模となる190億豪ドル(約1兆3200億円)の10年国債入札を実施しています。
先進国の中でも高利回りを提供する豪国債の人気が裏付けられた形です。
豪財務管理局(AOFM)によれば、「同国債(2030年12月償還)の落札利回りは1.025%。応札額も535億豪ドルと記録を塗り替えたとのことです。」とありました。
もちろん、円建て債ではないので、為替変動リスクがあります。
為替変動リスクについてはほとんどの方がご存じかとは思いますが、念のために説明をしておきたいと思います。
野村アセットマネジメントの解説によれば、次のような方法があります。
為替変動リスクは、将来の為替がいくらになるか分らないために生じるリスクです。 そのリスクを避けるには、「今の時点で、あらかじめ将来の為替を予約して確定させることで、為替の影響を受けないようにする
これを「為替ヘッジ」といいます。
「ヘッジ」とは、防ぐなどの意味があります。
単に「為替ヘッジをする」という場合は、一般に、自国の通貨(日本の投資家にとっては円) で為替変動リスクを低減することを指します。
為替ヘッジをしない場合は、為替変動の影響を受けるため、円高になれば為替差損が、円安になれば為替差益が発生します。
一方、為替ヘッジをすると、為替変動の影響が抑えられるため、円高になれば為替差損を低減することができますが、円安になっても為替差益を享受できません。
「為替ヘッジ」をする投資信託に投資する場合、為替ヘッジによって為替変動リスクを低減しても、投資している債券価格変動リスクは残りますので、基準価額が動かないということではありません。
「為替ヘッジ」をしない場合と比べ、「為替ヘッジ」をする場合のパフォーマンスはなだらかな動きとなる」としています。
コロナショックで世界中の株が大暴落をして、米国ダウもオーストラリアの代表的な株式指数であるオール・オーディナリーズ指数も3/23に安値を付けて反騰していますが、豪ドル米ドルは2日営業日早い3/19に底打ちしてその後急騰しています。
豪ドルはドルストレートの中では対ドルで最も買われている通貨となっています。
日本、米国、ユーロ圏に続きオーストラリアも量的緩和策をとり始め、豪ドルの短期金利は0.25%まで下がりました。
ただチャートを見る限り、コロナ勃発後はもっとも強い通貨になっています。
中国がコロナ危機から先行して出口に向かい始めたことも手伝ったかもしれません(ただ中国では第2波のうわさが絶えませんが)。
またオーストラリアの感染者と死者数は日本の3分の一にとどまっています。
人口が少ないので一概には言い切れませんが、比較的よくコントロールされていることで豪ドル買いに寄与しているのかもしれません。
また原油価格が高くなって来たことや、金価格が高いことも影響しているのかもしれません。
同ブルンバーグでは、次のような伝えられています。
高めの利回りに加え、豪ドルのヘッジコストが17年ぶりの低水準となっていることで、日本人投資家にとって豪国債の魅力が米国債よりも高くなっている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う市場混乱の中、リターンを確保する方法を模索している日本人投資家は、最近のオーストラリア国債入札での過去最大の需要に貢献した。
豪国債が「発行の時に買ったらそんなにコストかからない」ため、日本人投資家にとって買いやすくなっていると指摘。
今は「米国、カナダ、オーストラリアの金利はほとんど一緒だが、10年もしくは長いところの金利水準はオーストラリアだけとびぬけて高い」と述べた。
オーストラリア準備銀行(中央銀行)の大規模な量的緩和プログラムを通じた豪国債の買い支えも、投資家の購入を促している。
たしかに、RBA(オーストラリア準備銀行)が買い支えているので暴落は今はないだろうと思えば、安心買いできる。
ただし、最近の豪ドル円の高値のレンジは70~75円だったのでそれに近づいてきている今は、為替ヘッジだけはしておいたほうがよいでしょう。
少し為替ヘッジコストについて学んでおきましょう。
その前にこれまではどうだったのか少しおさらいをしておきたいと思います。
豪ドル債の魅力については4カ月前は事情は全く違っていたのです。
2020/01/23(木)にアジア経済ニュースというネットニュースが伝えたところによると、次のようにあります。
オーストラリアの財務省財政管理局(AOFM)によれば、オーストラリアの国債の発行額は年間約600億豪ドル(約4兆5,143億円)で、2016/17年度には1,000億豪ドル以上の国債が発行された。
ただ、オーストラリアの10年物国債の利回りが米国債の利回りを下回っていることから、日本の投資家がオーストラリアの新規国債から遠ざかっている。
22日付オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(AFR)が報じた。
AOFMのニコール局長は、「日本の投資家はオーストラリア市場を好んでおり、わが国の市場では大きな投資家となっている。しかし、利回りが低下したためにオーストラリア市場への投資の正当性を見つけ出すのが困難になっているほか、豪ドルに資金を投じる上での為替ヘッジにかかる費用も増加している」と分析した。ただ、オーストラリア国債に対する需要は依然として強く、日本からの投資が減少した分はほかからの需要が埋め合わせているという。」と伝えています。
リスクをあまり取りたがらない日本人の投資は、やはり利回り狙いなので、米国債のほうが少しでも有利であればそちらに向かうのは当然の帰結ですね。この記事が発表されたのはたった4カ月前でしたが、その時の豪ドル円の相場が75円前後であったので為替ヘッジしていなければ3月19日には60円までと20%もの為替差損を被ったことになります。
野村アセットマネジメントの資料によると、「為替ヘッジコストとは短期金利差です」から、例えばドルと円の金利差は米ドル短期金利が当時1.5%~1.75%でしたので、それがドル債を購入するときの為替ヘッジコストでした。米国10年債利回りは1.68%~1.83%なので、ほとんど投資妙味がありませんでした。
一方、オーストラリアの政策金利は1.0%に対して、10年債金利のほうは1.1%~1.18%でした。こちらもほとんど投資妙味がありませんでした。
また同ブルンバーグでは「イールドカーブが結構先進国で言うと目立つ形で立っている。ここまでカーブが立ってくると非常に魅力的」とあります。
カーブがたっているとは短期金利よりも長期金利が大幅に大きいという意味ですから、為替ヘッジコストは小さく、債券利回りは大きいということになります。豪国債はまさにそんな債権なのかもしれません。為替ヘッジコストが0.25%、10年債利回りは1%程度であることから豪ドル債はおいしいといえるかもしれません。
(※筆者は豪ドル債購入の推奨をするものではありませんし、野村アセットマネジメントとは一切関係ありません。投資の最終判断は自己責任となります。)
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